君の音に近づきたい
それから数日後の放課後だった。
この日は、香取さんの日コン三次予選のある日だった。だから、私の前の席は空席だ。
会場には行けないけれど、教室からずっと祈っている。
香取さんがどんな思いで頑張っているか。どれだけの思いを掛けて挑戦しているのかを知っている。その努力も見て来た。
力試しじゃない。勝ち取るために戦っている。
この日の授業はすべてが上の空だった。
この三次予選を通れば、ファイナリストだ。日本最高峰のコンクールの頂上にたどり着ける。
頼れるものがあるならすべてに頼りたい気持ちで、願っていた。
この日最後の授業が終わった頃だった。
私のスマホが振動した。
香取さん――っ!
私は、それを掴んで廊下に走った。
「香取さん? 結果は――」
(……ダメ、だった)
その掠れた声に、言葉を失う。
どうしてこういう時、何の言葉も出て来ないのだろう。
(残れなかったよ。でも、分かってたの。今日の三次予選、ボロボロで。ファイナルがかかってると思ったら身体が動かなくなって。いつもの力の半分も出せなかった……っ。頑張ったのにな。この日のために、私――)
いつも颯爽としてかっこいい香取さんが、小さい女の子みたいに電話の向こうで泣いている。
胸が痛くて、声にならない。
「……でも、また、いくらでもチャンスは、あるよ」
かろうじて出た言葉が、そんな言葉で。自分自身に苛立つ。
(分かってるんだけど。でも、私と同じ年の子がファイナルに残った。同じ年なのに。私じゃ、ダメだった)
「香取さん……」
その心を思うと、自分のことのように苦しい。子供の頃に味わった辛い記憶がよみがえる。
結局、気の利いた言葉も力づける言葉も言えないままに、電話を切った。
どうしてもこのまま家に帰る気にはなれなくて、気付けば01教室の前に来ていた。