君の音に近づきたい
epilogue
あれから、月日が経ち。
高校3年生になっていた。
校庭の木々の桜が、入学した日と同じようにそろ散ってしまいそうだ。
教室の窓から眺めていると、ふと、入学式の日のことを思い出した。
それと同時に思い出す、あの日の出来事。
思い出して、ふっと笑ってしまいそうになる。
ファンだって、間違えられたんだ。
本当のあの人を知った、初めての日だった。
あの日から、もうずっと音だけじゃなくてあの人そものがこの心に棲みついてしまっているけれど――。
この日まで、少しは私も成長したと思っている。
コンクールにも挑戦した。
日コンほど難関ではないけれど、本選まで進むことが出来た。
私は、本気で向き合っていますよ――。
二宮さんは、何をしているのか。
便りなんてあるはずもない。
友達だなんて言って、全く薄情な友人だ。
何気なく見つけた、本当に小さいネット記事。
それは、五年に一度ポーランドのワルシャワで行われる国際コンクールの予備審査に、何人日本人が通ったかという記事だった。
その中の一人の名前に目が止まる。
”Sou Ninomiya”
二宮さん――国際コンクールに挑戦したんだ!
嬉しくて思わず口元に手を当てる。
良かった。
ここからですね。
勝負はここから。
教室から、いつもの01教室へと向かう。
この部屋に来ると、木の香りと共に二宮さんの怒声が蘇る。
いつも、ダメ出しされていた。
どれだけ時間が経っていると思ってるのよ――。
懲りない自分に呆れつつ、また鍵盤に指を置く。
「――よう、どヘタ」
ノックもなく、勝手にドアが開く。
まさか。
そこに現れた人を見た瞬間に、涙がこぼれる。