君の音に近づきたい
1 憧れのひと




今にも散り終えてしまいそうな桜の木の下で、私は大きく息を吸う。

私、頑張ったな。
すごく頑張ったよなー。

中学三年間のことが、走馬灯のように蘇る。

特にこの一年は、寝る、食べる、学校、お風呂、それ以外の時間のほとんどをピアノを弾いて過ごした。

ピアノの椅子と一体化しちゃんうんじゃないかと思ったほどだ。

私が住んでいるのは、ごく普通の一戸建ての家。そこに作ってもらった6畳ほどの防音室で、ほとんどの時間を過ごした。
寝るのも、学校の宿題もグランドピアノの下で。起きてからすぐ、寝る直前まで、少しでも長く練習したかったからだ。

何より好きなピアノでも、音楽科の高校入試までの二、三カ月は気が狂いそうになった。
88の鍵盤と楽譜が頭から離れなくて、
取り憑かれたようにぶつぶつ独り言を言ったり、ご飯中に突然指を動かしたり。
そんな私を、お父さんもお母さんも、いつも心配そうに見ていたっけ。

でも、どんなに辛くなっても、練習をやめようとは思わなかった。

それもこれも、全部この日のため。

真新しい制服に身を包んだ私は今、聖ヶ丘音楽大学付属高校の校門の前に立っている。

起きていても寝ていても夢に見ていた、憧れのこの場所に立つことができた。

『付属高校 入学式』

校門に立てかけられた看板をしみじみと見つめる。

本当に、本当に、合格したんだな。
もう夢じゃないんだな。

胸元に揺れるワインレッドのリボンが風にそよぐ。

私も晴れて、この音楽高校の一員になります!

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