君の音に近づきたい
入試の時にも来たし、入学説明会でも来ているのに。もう、何を見ても感動する。
ここ、聖ヶ丘音楽大学は、国内にいくつかある音楽大学の中でも名門校と言われる。その付属高校も、超エリート校だ。
はっきりと言ってしまうと、私はただただピアノを弾くのが好きなだけの凡人で。取り立てて才能があるわけでも、器用なわけでもない。
そんな私がここに入学するには、血のにじむような努力はして当然。
才能がある人だってみんな努力している世界だから、より多くの練習量で稼ぐしか方法がみつからなかった。
中学三年間はピアノにすべてを捧げたと言ってもいい。
でも、ここを目指した理由は、名門校だからという理由ではない――。
レンガ造りの校舎の前に張り出されていた新入生のクラス表で自分のクラスを確認する。
――1年B組
そこに自分の名前『桐谷春華』の文字を見つけた。
一学年80名程度。A組とB組の2クラスしかない。
頑張る。
絶対に頑張る。
そして、絶対あの人に会う――。
B組の教室で一度集まると、すぐに式典が行われる講堂へと移動となった。音楽学校だけあって女の子の方が少し多い。
知り合いはいないけれど、知っている子ばかり。
向こうは私のことなんて知らないだろう。
でも、私は知っている。
どこを向いても、有名どころのコンクールで入賞している子たちばかりだった。
さっきまで浮かれまくっていた気分が、少し怯えに変わる。
いやいやいや。
頑張るって決めたんだから。
少しだけ肩身が狭い気分になりながら、木の香りのする廊下を歩いて行った。