君の音に近づきたい
3 やっぱり凄いひと



大惨事を起こした公開レッスンから、私はより肩身の狭い生活をしている。

一学年2クラスしかない小さな学校だ。
ピアノ専攻のほとんどの生徒が聴いていたのだ。悪い意味での有名人となってしまった。

『テクニックも音楽性もない女』

そう陰で言われているのは分かっている。
公開レッスンを見に来ていないヴァイオリン専攻の香取さんでさえ知っていて。
あの日、同情からかいつもクールな香取さんがそっとジュースを差し出してくれたのだ。

そう考えると、特に悪い理由で名前が挙がっていない林君は、彼が思うほど酷い演奏ではなかったんじゃないかと思える。

一番下手な私が、誰かを励ますなんて――。

思い出すと恥ずかしくなる。

公開レッスン最終日、3年生のレッスンが同じ大教室で行われていた。

そのトリを務めるのは、もちろん二宮さん。
二宮さんはうちの高校の特待生の一人。つまり、この学校で一、二を争う実力だということ。そりゃ当然だ。
既にCDデビューしていて、オーケストラとも何度も共演を果たし、単独リサイタルも満席にできる。高校生にして立派なピアニストなんだから。

あーあ。考えれば考えるほど凄い人なわけで。
私、何やってたんだろ。

はぁ……。

溜息をついている間にも、舞台中央に現れた二宮さんに、たくさんのギャラリーの視線が向けられていた。
思い出したくもない舞台を目の前に、私はそれでも目を背けずに二宮さんを見つめた。

『今の俺の音がどんなものか教えてやる』

そう言っていた。
だから、一音も漏らさずに聴きたいと思う。
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