君の音に近づきたい
「正直に答えろ」
私が口籠っていると、二宮さんの射抜くような視線が突き刺さる。
もう、どうせ私の印象なんてサイアクなんだし。住む世界が違う人。この先関りがあるはずもない。だから、取り繕う必要もない。
心を決めて、二宮さんに向き合った。
「先ほどの演奏に関して言えば……すごく、上手かったです。でも、それだけです」
「ふーん。俺に向かって、大きな口たたくじゃないか。落ちこぼれのくせして」
そう言いながらも二宮さんは、腕を組み笑っている。
ますます意味が分からない。
「す、すみません。偉そうなことを……」
とりあえず、頭を下げる。
私が何か意見できる程の実力があるわけではないことも、落ちこぼれなのも全部本当のことだ。
「桐谷」
「は、はい……?」
名前を呼ばれたと思ったら、何故だかその顔が近付いて来る。
「な、なっ」
何――?
「きゃっ」
女子生徒からは小さな悲鳴が。私の心の中でも悲鳴があがる。
(あんた、合格。特別に教えてやるよ。だから、放課後03教室に来い)
耳元で囁くようにそう言ったかと思うと、「じゃあ」となんでもないような顔で去って行った。
「い、今の、なに? 桐谷さん、二宮さんとどんな関係?」
女子生徒が一斉にざわつく。
残された私の立場なんて、きっと何も考えていない。
あの人、絶対わざとだ――!
「どんな関係でもないよ」
クラスメイトの女子の視線から逃げるように、自分の席に戻った。