君の音に近づきたい
「す、すみませんっ!」
その声で、肩をびくつかせ、顔を隠すように俯く。
「なんで、公開レッスンであんなにも酷評されたのか。少しは自分で考えたのか」
「はい。なるべく好き勝手に弾いてしまわないように、楽譜に忠実に弾くように意識はしているつもりで――」
「つもり? つもりとは、何だよ」
「す、すみませんっ!」
見なくても分かる。今、物凄く盛大な溜息を吐かれた。
そして、近付いて来る足音で分かる。めちゃくちゃ、苛立ってる。
「あんたの”つもり”は、まさに”つもり”だよ。なんとなく。こんな感じで。感じたままに。それっぽく聴こえて、自分が弾いていて楽しければそれでいい。それが一番大事な演奏になってる。だから、他人にすぐその粗が見抜かれるんだよ」
「は、はい……っ」
容赦ない、矢継ぎ早のきつい言葉に、私の背中はどんどんと丸くなって行く。
「今すぐ、楽譜を出せ!」
「はいっ!」
落ち込む暇なんて与えない。
二宮さんの指示に従うべく、私は椅子から飛び降りるようにして鞄からショパンのエチュード集を取り出した。怒りに触れないよう、素早くピアノの譜面台に開いた。
「座れ!」
「はい」
言われるがままにピアノの椅子にもう一度腰掛けると、そのすぐ横に二宮さんが立った。