君の音に近づきたい
言ってやる!
それでもっと上手になれるんなら――!
それくらいのこと、言える。
「お、お願いします。……どヘタ……な私にレッスン、してくださ、い……っ!」
私に恥もプライドもない。
負け犬春華、地に這いつくばってでもやってやる!
私は、これ以上無理って言うくらいに頭を下げた。
「――よくできました」
二宮さんの嫌味に明るい声が耳に届く。
「仕事が落ち着いたら、また見てやるよ」
仕事――。
そうだよね。二宮さんは、忙しい。
学校に、ピアニストとしての仕事に、自分の練習……。それなのに、私のために時間を作ってくれるんだ。
「そう言えば二宮さん、最近CD出したんですよね? 絶対、聴きます――」
思わずそう言うと、二宮さんから思いもよらない言葉が返って来た。
「そんなもの、聴かなくていい」
さっきまで、意地悪な表情で笑っていたのに、酷く強張った顔がそこにあった。