君の音に近づきたい
「林君!」
必死に前を歩く林君について行くけれど、先生たちのいる部屋がある方向とは違うことに気付いた。
「ねえ、林君。ここ、場所、違うんじゃ――」
「ここまで来たら大丈夫かな」
「……え?」
ようやく振り向いた林君は、いたずらっ子みたいな顔で私を見た。
「ホントは、嘘。先生に呼ばれてなんかないよ」
「へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「なんか、桐谷さん、困っているみたいだったから」
「あ……」
それって、私をあの場から連れ出してくれたってこと――?
「なんだ……。そうだったのかぁ」
「ごめんね、勝手に」
校舎の果て、裏庭に面した場所だった。廊下の窓から古ぼけたベンチとバスケットゴールが見えた。林君がその窓にもたれて笑うから、私もその隣に背を預けた。
「ううん。ありがとう。正直、助かった」
私も笑う。
「でも、林君がそんな嘘言うなんて、びっくり。先生が同じっていうのも嘘?」
短い黒髪が爽やかな、優しい雰囲気の人で。何食わぬ顔で嘘がつけるようにはみえなかった。
「ううん。それは本当。知らなかった?」
「ご、ごめん。知らなかった。もう、これまで自分のことで精一杯で」
人のことを気にしている余裕がまるでなくて。でも、それも言い訳みたいで、申し訳なく思う。
「いいんだ。そんなわけで、同じクラスで同じ門下。改めて、よろしくね」
それなのに、林君は少しも気分を害した様子もなく、その大きな目が細めた。
「うん。こちらこそ、よろしくお願いします」
私も笑顔を返す。