君の音に近づきたい
「な、何してるんですか……っ!」
ようやく言葉が声になる。
「あんたのクラスに行ったら、練習室にいるんじゃないかって言われて。どの部屋で練習するかくらいクラスメイトに伝えておけよ。いくつもある練習室を俺に探させるとは、何様だ」
「誰も、探せなんて言ってません―――って、二宮さん、私のクラスに行ったんですか?」
恐ろしい。あれから少し時間が経って、ようやく落ち着いて来たというのに。
そんなことしたら、また―――。
ぞっとする私の横で、当然のような顔でそこにいる。
「仕事落ち着いたから」
「そういうことじゃなくて。どうして、わざわざこんなこと――」
意味が分からない。あの時、私に腹を立てたんじゃないのか。
それに、私との約束なんて忘れていたっておかしくない。
「俺は、約束したことは守るんだよ。その気のないことは言わない。言ったからには実行する。それだけだ」
あー疲れた――なんて言って、くつろぎ始めている。
「つ、疲れているんなら、早く帰った方がいいのでは……」
クラスメイトは今頃また噂しているだろうか。
私と二宮さんが二人で練習室にいるなんて知ったら、また何を思うか――。
あれこれと考えたくもないことが頭を駆け巡る。
「さっきからなんだよ。俺を追い返そうとしてんのか?」
「そう言うわけじゃ――」
「じゃあ、何なんだよ」
仕方ない。この人にも私の現状を知ってもらう方がきっといい。
私は身体を二宮さんの方に向け、口を開いた。
「実は私、事実とは違うことで校内で噂をされていて。二宮さんの公開レッスンのあった日、二宮さんが私に、その、耳打ち……したせいで、どういう関係なのかと問い詰められて……」
自分で説明するのも、気恥ずかしい。
でも仕方がない。これ以外に上手い説明が見つからない。
「それが何故か、私が二宮さんを追いかけまわしているなんてことに飛躍して。実力がないレッテルの上に、今度は身の程知らずなんていうものまで加わって。こうして二人でいると、また何を言われるか……」
なんだか、こんな説明をしている自分が嫌になって来る。
だから、語尾が尻すぼみになってしまう。