君の音に近づきたい
”第50回聖ヶ丘祭 ステージ企画 連弾オーディション”
次の日、生徒ホールの掲示板に一枚のポスターが張り出されていた。
当然のごとく、たくさんの生徒がその前に集まっている。
「二宮さんと連弾? 何、それ!」
「あの二宮さんと一緒にピアノ弾けるなんて、こんな企画でもないとあり得ないよ!」
ピアノ科の生徒が大騒ぎだ。見たところ、入学したての一年生が特に興奮している。そりゃそうだ。テレビの向こうの有名人だった人と、一緒に演奏ができる――興奮しないわけがない。
「やってみたい!」
「私も!」
だよね……。
この人だかりを前にするだけで、意味もなく緊張して来る。
「選ばれるのは一人か。これ、絶対競争率高いよね……」
だよね……。
「オーディションは一か月後だって。演奏曲目は自由。得意曲で勝負できる」
「それなら、今レッスンしている曲でも可能だもんな。負担は少ないかも」
男子生徒まで興味を持っている。既にCDデビューしているような人と一緒に演奏したいと思うのに男女なんて関係ない。
はぁ……。
ざわつく人の塊から離れて、教室へと向かった。
連弾したいと宣言したのはいいものの、私、大丈夫なのか――?
自分の顔が青ざめて行くのが、手に取るように分かる。