君の音に近づきたい
「ライバル多いけど、お互い頑張ろうね。私も、林君に負けないように頑張る。勝ち負けとか、本当は物凄く苦手なんだけど……」
こんな風に友達とも競い合わなければならない。
それは、オーディションもコンクールも一緒だ。
「桐谷さんは、誰かと競うとか、そういうの、あんまり好きじゃないのかなって思っていたから。あのオーディション受けると知って僕も驚いたよ」
「うん。でも、もっともっと上手くなりたいって思ったの。二宮さんとの連弾は自分をもっと頑張らせることができるんじゃないかと思って。思い切って挑戦してみることにした」
そう言うと、林君がどこか複雑そうな表情をして私を見た。
「あの連弾って、オーディションが夏休み前にあるよね? 文化祭は9月だ。だから、夏休み中に、二宮さんと練習するってことになるんだよね……」
「ああ……そっか。それで夏休み前にオーディションなんだ」
連弾が決まったら嫌って程レッスンしてやるって、二宮さんが言っていたっけ。
それって、連弾相手になったら夏休みに一緒に練習できるということだったんだ。
「連弾だし、それって、二人きりでの練習なんだよね……」
独り言のような呟きに、思わず林君を見上げる。
その表情は、やっぱり難しそうな顔をしていた。
「そうなるよね。二宮さんと二人とか、絶対緊張しちゃうよね」
誰だって、緊張するに決まってる。
三年生の先輩だし、それより何よりかなりの有名人だ。
「それに、二宮さん、言い方とかホントに鬼みたいなの、だから――」
「やっぱり、二人は親しいの?」
思わずふっと笑ってしまうと、真剣に覗き込むような視線がそこにあってびっくりする。
「う、ううん。何度か話したことがある中で、テレビや雑誌で見ていたのと雰囲気が全然違ったから驚いて」
「……そうなんだ。とにかく、僕も精一杯頑張るよ」
「う、うん。私も、頑張る」
「じゃあ」
林君、どうしたんだろう――。
何か、怒らせるようなことを言ったかな。
険しい表情のまま、行ってしまった。
その背中を見送りつつ、このオーディションの重みを噛み締める。