君の音に近づきたい

私たち一年生は、連弾オーディションの話題でもちきりだった。

「……桐谷さんも、受けるらしいよ」
「やっぱり。あの子、二宮さんの追っかけだもん。この学校来たのも、二宮さんがいるかららしいよー」

どうしてこうも人のひそひそ声が、ばっちり聞こえて来てしまうんだろう。
あの子たちだって、私に聞こえないように話しているつもりだろうに。

「それで、頑張ってこの高校来たんだ。入試の課題曲だけ一生懸命頑張ったパターンか」

……はい。おっしゃる通りです。

『テクニックも音楽性もないくせに身の程知らずの女』

二宮さんとの連弾オーディションを受けるということで、さらに二宮さんの追っかけ説を証明してしまっていることになる。

残された道は、何が何でもオーディションに合格すること――。

必死になって鍵盤に食らいつく。

練習すればするほど、弾けない自分を自覚する。
不安な分だけ練習するけど、弾けば弾くほど怖くなる。

弾いているはずなのに、自分のピアノがまるで耳に入って来ない。
余計に焦りばかりが増して、その分だけ鍵盤を叩いて行く。

絶対に、選ばれなきゃ。
恥をかかないためにも、頑張らなきゃ――。

日に日に、練習室の中で一人、恐怖と聞こえないピアノの音に飲み込まれていった。

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