君の音に近づきたい
5 ホントは……胸に秘めた思いを隠し持つひと

夏休みに入って、初めての二宮さんとの練習の日。

七月の下旬、夏真っ盛りの太陽は、朝からしっかり強い日差しを届けて来る。
通学途中の頭上から、じりじりと私を照り付けた。

この一週間、二宮さんから提案された曲、『エルガーの愛の挨拶』と『チャイコフスキーの花のワルツ』の譜読みをして一通り弾けるようにはした。
二宮さんを隣にして弾かなければならないのだ。考えただけで固まってしまいそうだ。当然、毎日練習室に通い、猛練習した。

木造の校舎に入り、練習室のある地下へと階段を駆け下りる。
01教室の重い鉄製扉を勢いよく開けた。
バッグを部屋の端に置いて、グランドピアノの鍵盤の蓋を開ける。
二宮さんが来る前に、すぐに練習できる準備をしておいた。

それから5分くらい経った後、扉が開く。

「おはようございます! 早いですね!」

「……あんたは、相変わらず元気だな」

気怠い雰囲気で全身を覆っているような二宮さんが現れた。
明らかに不機嫌そうな顔をしている。

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