君の音に近づきたい
「おい。無視していくんじゃねーよ」
「な、何してんですかっ!」
何を思ったのか、二宮さんが私を追いかけて来た。
その後ろには、やんやと騒いでいるファンたちがいる――。
「後輩なら少しは助けろよ。この役立たずめが」
そう言いながら、勝手に私の隣を歩いている。
「た、助けるって、嬉しそうに笑顔振りまいていたじゃないですか」
「あんなの、全部演技だって、知ってんだろ」
「そうだとしても、私は、ファンの女の子たちから睨まれたりなかしたくないんですがっ!」
本当に、信じられない。背後に突き刺さるような視線が痛い。
「大丈夫だよ。振り向かなきゃ、顔を知られることもない」
しらっと、適当なことを言う。
「人のことだと思って」
「後輩は先輩のためにいるんだよ」
それは一体、どんな論理ですか――。
自由気まま、やりたい放題。それも、私にだけ。
私、完全に、二宮さんにとっていじめて楽しいおもちゃみたいな存在になってるよね……。
「――それにしても、二宮さんって本当にかっこいいんですね。これまで忘れていたんですが、さっきの騒ぎを見て思い出しました」
01練習室に足を踏み入れ、つい、そんなことを言ってしまった。
「は?」
「あの子たち、二宮さんのファンですよね? 二宮さんを見つめる目が、完全にハートになってました。確かに、二宮さんは麗しい王子様みたいですもんね。仕方ないですよねー」
少々、棒読みになってしまう。
だって私は、貴公子の二宮さんで接してもらったことが一度もないのだから仕方ない。軽口を叩くくらいのつもりでそう言った。
「――ほんっと、腹が立つよ」
二宮さんの声の低さに、はっとする。
少し、言い方が失礼だっただろうか――。
「すみませ――」
「こんな顔に生まれて来たことを心底恨んでる。自分のこの顔が大嫌いだよ」
え――?
思いもしない二宮さんの言葉に、じっと見つめてしまった。
軽口でも冗談でもない。
真顔だった。だから、それが本心なのだと分かる。