やわらかな檻
 二人で黙り込んでいた。

 本当に読み始めてしまおうかと思ったけれど、文字を目で追うだけでどうにも集中出来ず、本の陰から慧の様子を盗み見れば途端に目が合う。

 ずっとこちらを見ていたようだった。

 賭けでもないのに負けたような気がする。

 悔しい、と表情に出ていたのかもしれない。慧は僅かに唇を緩めるとオーナメントの中から一つを選んで持ち上げた。


「……ではこれは?」


 示されたのは男の子の天使だった。

 述語が省略されているものの、何を訊かれているのかは容易に察せられた。

 つまり、慧は思い出の品をきれいさっぱり忘れ去られたことを怒っている。何かしら言って覚えていると証明すれば良いのだろう。

 徐に抹茶色のソファから下り、オーナメントを挟んで慧の向かいに腰を下ろした。

 迷うことなく天使――女の子の方を手にとって渡し、ついでに手近にあった物をペアごとにまとめて整理しておく。

 毎年選んで買っている人間が分からないわけがない。


「私だって去年買ったものくらい覚えてるわ。他はこれとこれが一緒でこれとそこの色違いのがペア!」

 慧が引き離して飾っているトナカイとサンタだって元は一対で売られていたのだ。

「白と赤の小鳥」

「屋敷を抜け出して、慧と二人でデパートまで買いに行ったのよね。結構昔からある……ような?」


 ある程度昔になると、ペアは分かっても何年前に買ったかは分からなくなってしまうのが難点だった。
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