やわらかな檻
「また、余計な事を」

 見えなくなる前の彼は、私でも分かるくらいに不機嫌だった。

 美しい形の眉が吊り上がる。

 一切の有無を言わせず、私にアイマスクをさせて車の中へと連れ込む。


「誰がやったんです? これ」


 微かな音。

 滑らかな指先で髪を持ち上げられ、ようやく何を指しているのか分かった。

 痛いくらいに抱きすくめられる。
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