やわらかな檻
 彼女の後姿を見ていた事実を上から覆い被せて、消してしまえれば良いと思った。

 僕の思いを知らない彼女は顔を上げ、縁側に繋がる障子の方を一瞥し、それから不機嫌そうに目を細め、唇すら尖らせながら振り向いた。

 どうしてそんなこと言うの、と反発を含む表情が言っている。


「いやよ。暑いもの」


 一週間前は梅雨の晴れ間だった。

 今日と同じくらい暑く、高い位置で髪を一つに纏めた彼女は活発そうな印象を与えていた。
 
 何をしたいか聞くと「お庭に出たい」だそうで、どうやらここの夏の庭がお気に召したようだった。
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