やわらかな檻
 髪を触られている間うっすら笑みを覗かせて大人しくしていた彼女は、一転、ソファに両手をついて身を乗り出した。


「いる!」
「味は何が良いですか」
「イチゴが良い」
「用意させましょう」


 内線付きの和室は一歩も出ずとも生活できる造りになっている。壁掛け式の電話に近づくと再び彼女を見て、何か言いたげな視線とかち合った。


「他にお望みは?」


 書斎から新しい本を持ってきて欲しいのだろうか。やっぱりイチゴよりレモンが良いと言い出すのだろうか。

 彼女らしいわがままを予期して声をかけたが、返ってきたのは強い意思を込めた言葉だった。
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