やわらかな檻
 不謹慎なことを考えて良いなら、その仕草も可愛い。むくれていても、泣きそうでも、絶望していても。


「――泣いてなんか、いないわ」


 訊いてなんかいないのに、彼女は気丈にもそう言った。



 遊び相手を門まで送って行った後、離れに戻るとちょうど良く侍女がいたので、借りていた草履をその場で返して自室に上がった。

 自分の履物は持っていない。あれを次に履くのは一週間後になるだろう。彼女が遊び相手の役目を嫌にならずに、この屋敷へ来てくれれば、の話だけれど。

 彼女が来るまでそうしていたように、また本のページを捲り出す。
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