入れ替わったら彼の愛情をつきつけられました。
厳しいけれど優しくて、企画したイベントは必ず成功させる力のある人。


そして、家の中での大河も思い出した。


陽菜相手に甘えた声を出して、一緒にお風呂に入ろうと誘ってくる。


会社でのピリピリとした緊張感ある雰囲気は脱ぎ捨てられて、巣の大河が現れる。


それは陽菜の前だからだった。


陽菜は大河の素顔を引き出し、心からの安心を提供できる人……。


2人の関係は、自分なんかに崩すことは到底できない。


そう理解した瞬間、嘘みたいに涙が引いていった。


つらい気持ちはまだある。


だけど自分に勝ち目はない。


それなら、自分ができることはただひとつ。


自分の体に戻ることだ。


思い立って顔を上げると、すでに外は暗くなりはじめていた。


あと1時間もすれば大河が帰ってきてしまう。


「いけない!」


小さく呟き、美緒はキッチンへと向かって夕食の準備を始めたのだった。
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