入れ替わったら彼の愛情をつきつけられました。
☆☆☆

OKカンパニーからアパートまでは電車で20分ほどの距離がある。


通勤時間にスマホではなく、文庫本を読むのが美緒の日課だった。


今日は短い会議のためだけに出勤していたので、時間はまだ早く電車内はすいていた。


それでも車両の隅を選んで座り、カバンから取り出したのは女性向けの恋愛小説だ。


特に上司と部下という恋愛関係が好きで、家に帰ると何冊もの大人ラブな小説が並んでいる。


そして文章を読み進めていく内に考えるのは決まって大河のことだった。


このシーン、柊さんだったらどうな風だろう?


柊さんにこのセリフを言われたら?


柊さんと恋愛できたら?


そんなことを延々と考えて読書をしていると、いつもあっという間に目的の駅に到着する。


アパートの最寄駅で下車したときにはいつも少し頬が熱くなっている。


自分にとって都合のいい妄想をして気分よく帰宅してからも、考えるのはやっぱり大河のことだった。


着替えを後回しにしてリビングでパソコンを開き、仕事のメールをチェックする。


さっき会議を終えたばかりの大河から、さっそく連絡が入っていた。


各自自宅でやる仕事のフォローをしてくれる内容だった。


自宅勤務に切り替わってもちゃんと部下のことを考えてくれている。


そのやさしさに胸が温かくなり、そして切ない気分になった。


帰宅したばかりなのに今すぐ会社に戻って大河に会いたくなる。


そんな気持ちを押し込めて、美緒は仕事を開始したのだった。
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