天然お嬢と双子の番犬さん


それなりに慣れている。

でも…自分に向けられた殺気って言うのはあまり慣れていない。




顔を逸らし回した手に力を入れた。
察した和が頭を撫でてくれた。




「悲しいなぁ…花に嫌われてしもたんかー?」




まだ殺気がある。
少しだけ、怖い。



「…終いだ。さっさと帰れ」



湊が言った。



リムジンの前で藍色のストライプ柄スーツを着た男の人が、パパと一緒に煙草を吸っているのが見えた。

男の人は誰かを待っている素振りだった。



…春比古くんと詩歌ちゃんのお父さん、かな。



「…しゃあないなぁ、」



詩歌ちゃんを抱っこして立ち上がった。



良かった…殺気無くなってた。

安堵の溜息を吐く。




「──花、」




車の方に向かう前に振り返る春比古くんが目を細めた。




「すぐに会いに来るさかい。待っとき」




顔を綻ばせた瞳の先は、笑ってはいなかった。

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