天然お嬢と双子の番犬さん
***
「──なんや、珍しいな」
白髪交じりの灰色髪の男。
右京組組長、右京 健世。
そう言う視線の先に居るのは、その息子春比古。
「それ、嫌や言うて絶対隠しとったやろ」
それと言うには痛々しい、火傷痕を指差す。
いつもは長い前髪で隠しているが、今日は違う。隠すことなく見せている。
『どうかしたん?』
娘の詩歌は手話で健世に問う。
健世は笑い、同じく手話で会話をした。
内容は春比古について。
窓の方ばかりを見る春比古は、少し笑ってから二人に手話で答えた。
「これはヒーローの証やから。隠すの勿体ないやろ?」
健世と詩歌はきょとんとした。
春比古は一人笑って、また窓の外を見た。
頬杖をつき、見ているのは人ではなく空。
ぼんやり眺める春比古の頭の中は、五十嵐花の事ばかり──。
「……あの二人、邪魔やなぁ」
ボソッと呟いた言葉は誰にも聞かれる事は無かった。
***