天然お嬢と双子の番犬さん
”ルーフスのボスには元々息子はいなかった”
名前の下にイタリア語で書かれた一文が見えた。赤黒いインクのような物で書かれているように感じる。
そして、ヤコポは知っていた。これが自分の父親の字では無いと言う事を──、ただのインクではない事も。
ヤコポは絶句し、男の顔を見た。
不敵に笑い、頬杖を付く男。
「Diavolo.」
”悪魔”
笑顔の裏に隠された黒い物──。
この言葉が最後となった。
煙草を落とし、踏み潰す。
──長い喫煙時間が終わった。
「老闆」
中国語で”ボス”。
その声に男は返事をする。
『手配完了しました』
『ご苦労さん。
先生によろしく言っておいてくれ』
イタリア語から中国語に変わる。
抵抗を辞め屍のようになったヤコポとその他を横目に、男は内ポケットに手を入れた。
取り出したのは一枚の写真。
中学の制服を着た花だった。
笑顔でピースしている花に笑みが零れる男。
そこにそっとキスをして、指で優しく撫でる。
「やっと会えるよ、お嬢」
小さく言った後、男は部屋を出て行った。
***