天然お嬢と双子の番犬さん
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ガサッ、
さっきまで花がいた山の中。
葉を踏みしめる音がした。
黒いサングラス越しに誰かを見ている。
「────…五十嵐花、」
全身黒い服に身を包んだ男は、黒の手袋を引っ張る。
銀色の長い髪を束ねた姿。
男は内ポケットからスマホを取り出した。
誰かに電話を掛けている。
五回目のコールの後、留守電に切り替わった。
男は無表情のまま一言。
「完了」
とだけ言って電話を切った。
スマホを戻した後、黒いワイシャツに視線を向ける。
黒色に混ざる、別の色。
男は溜息を吐いた。
「………あの女のせいで、買換えですね」
そう言うと、地面に落ちた大きな影を掴む。
それは茶色い毛のした生き物で。男は自分よりも大きなそれを溜息交じりに引きずっていた。
「……熊肉は苦手ですが、仕方ありませんね」
男は小さく呟いた。
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