天然お嬢と双子の番犬さん
言葉が出ない私に春比古くんは鼻で笑う。
「きしょいやろ?知ってるわ。
俺が一番分かって…、」
言い切る前に手を伸ばしてしまった。
悲しそうな顔をしていたから。
私がすぐに声を出さなかったから…悲しい顔をしたの?
「気持ち悪くなんて無いよ」
「…気休めなんていらへん」
「確かに最初は吃驚するけど。全然気持ち悪く無いよ?
痛くないのかなって思ったけど…」
もっと凄い人と会った事があるし、吃驚はしたけど気持ち悪いとは思ってなかった。
それにこの傷は──、
詩歌ちゃんを守って出来た傷だって知っているから。
守る、なんて言葉では簡単に言えるけど、実際出来る人なんて少ない。
だから和と湊にはいつも感謝してる。
いつも傍に居てくれて、助けてくれるから。
もちろん、五十嵐組のみんなもパパも…。
少しだけ触れたその傷を指で静かになぞる。見開く茶色寄りの黒い瞳と目が合う。
ふと思った言葉を口にした。
「なんだか…ヒーローの証みたいだね」
そんなことを言ったのは自分なのに、可笑しくてにへらと笑ってしまった。