離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


 車が旅館に到着すると、見えた立派な外観に思わず声に出して驚いてしまう。

 玄関近くの車寄せで停車をし、あとは車はパーキングサービスのスタッフに任せる。

 ガラスの自動ドアを入っていくと、その先には趣のある広いロビーラウンジ、奥には目を奪われる立派な日本庭園が見えた。

 達樹さんがチェックインを済ませてくれている間、その横でついきょろきょろと周囲を見回してしまう。


「奥様、よろしければお好きな浴衣をお選びください」


 そんな落ち着きのない私に、いつの間にかそばに来ていた着物の女性スタッフが声をかける。

 お、奥様……!

 他人からそう声を掛けられたことは初めてで、慣れないことに心臓が即反応。

 そうか、そうだよね。私たちは夫婦で、私は奥様とか呼ばれちゃうわけだよね……。

 どきりとしている私に、達樹さんが「見てくれば?」と言う。

 女性スタッフににこりと微笑まれて、「お願いします」とそのあとについて行った。

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