離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
チェックインカウンターのすぐ奥には、宿泊客にサービスで貸している浴衣が用意されていた。
色とりどり、絵柄も様々で、客が好きなものを選んで楽しめる。
「わぁ……どれも素敵ですね」
「ありがとうございます。お好きなものがありましたらどうぞお使いいただければと」
可愛らしいピンクや淡いオレンジのような色味も惹かれるけれど、濃紺や黒の大人っぽいものも捨てがたい。
「うーん……」と唸りながら悩んでいると、チェックインを済ませた達樹さんがやってきた。
「悩んでる悩んでる」
決められていなかった私を予想していたかのような達樹さんの声に顔を上げる。
私の横に来た彼を見上げて、ふと、本当にこの人が自分の旦那様なのかとこんなタイミングで思ってしまった。
達樹さんは周囲の視線を集めてしまう端整な容姿の持ち主。
本人は気にも留めていないようだけれど、一緒にいて私のほうが向けられる視線にそわそわしてしまう。
すれ違うだけの人にはわからないことだけど、そんな彼には医者という肩書きまであるのだ。
父親が医者というだけで達樹さんとの縁談があったわけだけど、私がこの人の妻でいいのだろうかとふとしたときに思ってしまう。