離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


 池を眺めたあとは、ゆったりと整備された庭園の道を散歩していく。


「達樹さん。今日は、連れて来てくれてありがとうございました」


 心地いい沈黙を破り、達樹さんを横から見上げる。

 私を見下ろした達樹さんは、どこか不思議そうな表情で目を合わせた。


「どうした、急に。なんかそんな風に改まって言われると、この旅行で最後みたいだな」

「え、違いますよ。そうじゃなくて、今日すごく楽しかったから」


 素直な気持ちを口にしてみる。

 旅行を計画してくれたことはもちろん、今日までワクワクして待ち遠しかった。

 ここに向かうドライブも、素敵な旅館に美味しいご飯も、何より一緒に過ごせた時間が楽しかった。


「だから、それを伝えたかっただけです」


 そう言うと、達樹さんは「そっか」と柔和な笑みを浮かべる。


「みのりがそう言うなら、連れてこられてよかった。俺も同じ気持ち。楽しかった」


 返された言葉に、私の顔にも自然と笑みが浮かぶ。


「一泊しか時間が取れなかったのが申し訳ないけど」

「そんなことないですよ。また、お仕事の都合がつくときがあったら旅行したいですね」

「〝また〟が、ある?」


 確かめるような達樹さんの声に顔を上げる。

 目が合った達樹さんは微笑を浮かべているけれど、瞳の奥にどこか切なさを滲ませているように見えた。

 それは間違いなく、私が離婚を申し出ているからだろう。

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