離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「って、今のは聞かなかったことにしといて。せっかくの楽しい時間が辛気臭くなる」
「はい……」
「楽しかったとか言ってもらえたのが嬉しいし、来てよかった」
「それは、私の本当の気持ちです! 気づいたら、そう思ってたから……もっと、この時間が続けばいいなって」
嘘偽りない気持ちだと、つい声に力が入る。
達樹さんはそんな私をフッと笑い、「ほんと、可愛いな」と、そっと肩を抱き寄せた。
「そろそろ、戻るか。ふたりきりになりたい」
耳元で囁くように言われ、途端に鼓動が跳ね上がる。
肩を抱かれたまま客室へと戻り、ドアを入ると即刻達樹さんに唇を奪われた。
「っ……達樹、さん」
「心の準備はできた?」
「え……?」
「露天風呂、一緒に入ろうって言ったじゃん」
そういえばそんな話をここに着いたときにしたとハッとして、部屋の奥へと私を連れていく達樹さんを仰ぎ見る。
「ほ、本当に一緒に入りますか?」
「だめ? 絶対に嫌だって言うなら、我慢する。でも、せっかくの初旅行だから、思い出に入りたいって思うだろ」
思い出にと言われてしまうと、恥ずかしいからと片付けられなくなる。それに、さっきは楽しみにしてたとも言っていた。
恥ずかしいけど……でも……。
「わかりました。でも、あとから入るので、先に入っててもらえますか?」
そう条件を出した私を、達樹さんは「わかった」と微笑した。