離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


 朝食を終えキッチンで食器を洗っていると、「みのり」と声がかかる。

 手を流して振り向いた目に飛び込んできた、達樹さんの久しぶりのスーツ姿に鼓動が跳ね上がった。


「そろそろ出る」

「あ、はい。見送ります」


 玄関まで出て行き、改めてまじまじとその姿を見つめる。


「どうした。どこかおかしいか?」

「え、いえ! どこも全くおかしくないです。すいません、スーツが久しぶりだったので、つい見惚れました」


 考えもせず正直にそう言ってしまい、〝まずい〟とハッとする。

 達樹さんの手が私を捕まえ、腕の中に閉じ込めた。


「じゃあ、今晩はこの格好で抱いてやろうか?」

「……っ!」


 あからさまに赤面した私に軽い口づけを落とし、達樹さんは「いってくる」と玄関をあとにする。

 開いたドアが閉まってひとりになり、熱くなった顔を両手で包み込んだ。


 もうもう! 心臓の音がやばいことになってるよ……。


 共に生活を送るようになって、もうすぐ一カ月。

 相変わらず私は、達樹さんの何気ない姿や言葉に鼓動を高鳴らせ顔の温度を上げている。

 でもそんな毎日を繰り返して、彼と一緒にいることで感じる癒しや、心安らぐ時間もたくさん得ている。

〝幸せだな〟と感じる瞬間に多く対面しているのだ。


「よし。洗濯して掃除、しちゃおう!」


 火照る頬をぺちぺちと叩き、気合いを入れて毎日の家事に取り掛かった。

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