離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
Side Tatuki
当直室から出てきた俺の顔を見て、今日初めて会う久世が「あれ?」と不思議そうに後についてきた。
気にせず自販機でコーヒーを買い求めていると、真後ろに気配を感じる。
「なんだよ」
「いや、つい最近もここで見かけたような気がして。昨日の晩、あの部屋使ってた?」
病院に居ついて早十日。
そろそろ誰かにそう指摘されるだろうとは思っていた。
当直が多いにしても病院に居過ぎだと。しかも、当直室を私物化しかけている。
その分現場に出て貢献しているから、今のところ誰も文句は言ってこないけど。
「なんだよ、奥さんとケンカでもしたか?」
俺の冴えない様子を見てか、久世は探るように訊いてくる。
「さあな。独身貴族のお前にはわからない悩みかもな」
「お。やっぱり奥さんとなんかあったか」
これは面白がられてる。
野次馬根性丸出しの久世を睨みつける。
「放っとけ」
あの日からずっと反省し続けている。
どうしてあのとき、嫉妬心と独占欲を暴走させてあんな乱暴にしてしまったのか。
つくづく自分の余裕の無さには反吐が出る。