離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「事故……じゃあ、早く向かわないと」
高度救命救急センターで外傷外科を専門とする達樹さんは、日々事故や災害などの負傷者の治療にあたっていると聞いている。
内科医の父しか見てきていない私には想像もつかない現場だけど、きっと血なんか日常的に見る壮絶な現場なのだろう。
「ああ、これからってところで悪いな」
「そ、そんなこと」
達樹さんはスマートフォンをベッドの上に放り、緩めたネクタイを締め直しながら微笑を浮かべる。
その姿を目にして、私も自分の留めていない残りのボタンを慌てて留めていく。
指先に目を落としていると、背後からふわりと達樹さんの腕に包み込まれた。
「でも、次は必ずみのりを抱く。だから、心の準備ができてないとか無しな」
耳元で囁かれて、またそこから広がっていくように熱くなる。
「そ、そんなこと言ってないで、早く向かってください!」
恥ずかしさを誤魔化すように厳しい声を上げ、回された達樹さんの腕を掴む。
私が外すよりも先に自ら私から手を離した達樹さんは、軽くあしらうように「はいはい」と言ってベッドから下りていった。
「落ち着いたら連絡する」
そう言うと、足早に私の元から立ち去っていった。