離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「あっ……」
そこには、私の顔を見つめて微笑を浮かべた達樹さんが立っていた。
昨日出ていったときと同じスーツの姿は、ネクタイを外した状態でシャツのボタンは上部が開き、どこか着崩れて見える。
顔に疲労は出していないけれど、相当疲れているのだろう。
「戻って、きたんですね……」
まさかここに帰ってくるとは思っていなかった。
むしろ、まだ病院で治療にあたっているのだとばかり考えていたところだったから、顔を見て開口一番そんな言葉が出てきてしまった。
はじめに掛けるべき言葉を間違ってしまい、「あ、お仕事お疲れ様です」と慌てて付け加える。
「お疲れ」と短く答えた達樹さんは、手に持っていたネクタイとジャケットをベッドの端に放り投げた。
「食事には間に合ったな」
「え……わざわざ、そのために」
「元々当直だった欠勤した奴が、夜中にわざわざ出てきたんだ。あの事故じゃうちが大変なことになってるだろうって心配して。だから結果人員も足りたし、朝方にはもう落ち着いたのもあって帰ってきた」
宿直を急に休むというのは、病院への迷惑を考えるときっと結構な理由があってのことだろうけど、休んでも結局なんとかして出てくるというのも相当なことだ。
達樹さんだってきっと同じ。そういう大きな責任を背負って立つ現場で働いている。