離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「そうでしたか、良かった……でも、重傷者がいたなら治療は大変でしたよね」
「食事をとりながら話す内容ではないかもしれないな」
達樹さんはさらりとそう返してきたけれど、それは現場の壮絶さを想像させる言葉。
外傷外科という診療科目上、普通の人が目を覆いたくなるような怪我などを達樹さんは日常的に診ているのだ。
「父は内科医なので、診察はどちらかというと平和というか……血も見ないですし。だから、外科をされてる達樹さんのお仕事はなんとなくでしか想像できなくて。やっぱり、倒れそうになったこととかあったりしますか?」
「倒れそう?」
「はい。血を見て」
それなりに真面目な質問としてそう訊いたのに、達樹さんはいきなりぷっと吹き出す。
「血を見て倒れてたら、ほとんど毎日倒れることになるな」
「えっ……! じゃあ、達樹さんは全然大丈夫なんですね。男の人って、血に弱い人が多いイメージがあったので」
「ああ、確かにそんなこと言うな。でも、そういえば研修医の頃、オペ中にいきなり倒れた奴がいたな」
「えぇー! やっぱりそういうこともあるんですね」
話を聞いているうちに興奮し、つい声のボリュームが上がっていってしまう。
自分の声がやたら響いていてハッとし、また周囲をきょろきょろ見回した私を達樹さんがくすっと笑った。