離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「え……」
どうしたらいいのか戸惑い動きを止めた私の手を、達樹さんは「たく……」と仕方なさそうに掴み取る。
「いちいち困るなよ」
そう言って指を絡め、微かに口角を上げた。
そんなこと言われたって、こういう状態に慣れていないし免疫がない。
男性の手に触れるのだって、こうして手なんか繋いで歩くことだって、昨日今日で初めて体験していることなんだから。
手を繋いでふたりで初めて帰ったマンションの部屋は、私自身もしばらくぶり。
住まいとしては機能させていなかったけれど、定期的に換気と掃除には訪れているから、急に暮らすことになっても問題はない。
「どうした?」
玄関で靴を脱ぐ達樹さんをぼんやり見つめていると、不意に声をかけられる。
「あ、いえ。なんか……ここに一緒に帰ってくることは無いと思ってたから、不思議な気分というか」
素直な気持ちを口にしてみる。
達樹さんは一瞬だけきょとんとしたような表情を見せたものの、すぐにどこか弱ったようにフッと笑みをこぼした。