離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


 私を横抱きで持ち上げた達樹さんは自分の靴を脱ぎ、まったく私を運んでいるとは思えないスマートな動作で玄関を上がっていく。


「あの、私、靴を脱いでないです!」


 そんな私からのお知らせに微笑を見せながら、達樹さんが入っていったのはさっき昼寝をした夫婦のベッドルーム。

 あっという間にその上に横にされ、慌てて両手をついて上体を起こした。

 履いていたパンプスがベッドの上に載っていることに気が引けて、足先を浮かせる。

 達樹さんは私の足もと近くに腰をかけ、浮かせた足首を掴んだ。

 黙ってひとつずつパンプスが脱がせていく。

 この場所に、この状況。

 今から何が起こるのかを、フィクションで培った頼りない知識で必死に想像する。

 でも、思い当たるのは体の熱を上げていくような艶っぽいことばかり。

 達樹さんとは離婚前提で、その日を迎えるまで時間を共有しているだけ。

 でも……。


『俺は離婚前提でお前と過ごしてはいない。夫婦として、妻を愛するというだけだ』


 そんな風に言われてしまうと、何も言い返せなかった。

 妻を愛するだけ──本当に、愛してくれるの……?

 あのとき、こころのどこかでそう問いかけていた気がする。

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