離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
帰国と同時に離婚を申し出たあの日から、早一週間。
あの日の私は、一週間後の自分がこのマンションで夕飯の支度をして彼の帰宅を待っているなど、一ミリたりとも想像しなかっただろう。
一カ月の間に離婚したいと言う私の気持ちを取り戻すと宣言した達樹さんは、お仕事に出かける時間以外を私に費やしている。
帰国後翌日には海へのドライブデートに連れ出してくれ、その数日後は仕事後に一緒に食材の買い物に付き合ってくれた。
今晩は一緒に映画鑑賞の約束をしていて、呼び出しの心配がないという次の休みには、一泊で温泉旅行に行くことになっている。
達樹さんは勢いで挙げた私のやりたかったことを、着実にひとつずつ叶えていってくれているのだ。
鏡の中の自分をぼんやり見ていると、ふと、トップスの襟口から覗く赤黒い痕に目が行く。
そっと服を退けてみると、達樹さんの口づけた痕がくっきりと現れた。
目にしただけで、鏡の中の自分の顔がほんのり色づいていくのを目撃する。
『これを見たら、俺を思い出すように』
薄れてくる間も与えず、毎夜重ねられる痕。
これを見てあの濃密な時間を鮮明に思い出してしまうのだから、達樹さんの思惑通りだ。