離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
「久世か」
ぼんやりとパソコンの画面を見ていた顔を上げ見えたのは、いつの間にかそばに立っていたらしい同期の久世公宏だった。
「どうした」
「呼ばれたんだよ。転落による頭部損傷。今から搬送されるって」
久世はここの脳神経外科に在籍している。
うちの救命救急センターにも席を置いていて、脳神経外科分野で力が必要な時にはこうして呼ばれて治療にあたっている。
「そうか」
「なんだよ、珍しくぽけっとしちゃって」
久世はなぜか探るように笑みを浮かべ、横からかけたままの俺を覗く。
「いや、別に」
「ああ、なるほど。噂通りってことか」
「噂?」
「いろんなとこで聞くからな。曽我、帰国してから離れてた奥さんにどっぷりだって」
内容には否定はないが、一体どこでそんな話が広がって久世の耳まで届いたのかと思うと顔には出さずに驚く。
「みんな人の噂が好きなんだな」
皮肉交じりでそう言ってみると、久世は「否定はなしか」と笑みを深めた。