離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました
湯けむりで愛を深めて
最後の患者さんのお会計をし、処方箋を手渡す。
「お大事にどうぞ」
自動ドアの前で振り返り「ありがとうね」と頭を下げた患者に「お大事にしてください」と笑顔を見せた。
今日は実家の診療所の受付業務を手伝う日。
週に三回、こうして受付に座り患者さん対応の業務を任されている。
実家の病院だから家事手伝いみたいに思われがちだけれど、医療事務の中でも最高峰だといわれる診療報酬請求事務能力認定試験に合格した上でこの仕事を任せてもらっているのだ。
「よし……」
患者さんを見送り、受付の内側に設置されたパソコンに向かう。
レセプトコンピューターに診療情報を入力していると、「みのり」と奥から母親の声に呼ばれた。
「ん? どうしたの?」
「患者さん、もう帰られた?」
「あ、うん。少し前に」
そう答えると、母親は受付から表に出ていき診療所の入り口の戸締りを始めた。
「みのり、達樹さんとはどう?」
再び受付の中に入ってきた母親は、唐突にそんなことを訊いてくる。
いきなり彼の名前が出てきて、思わず手もとの作業をやめていた。