「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
「随分と入れ込んでいますのね、その女に」

ブス女がミアを見下すように言う。

ブスのくせにミアを見下すなんて、最低。さっきの件も合わせて倍返ししてやりたいけどダニエルの前だから下手なことはできない。

ここは大人しくやられたフリをしておこう。

後でディアモンに言いつけてやる。

「彼女はジュノン様の婚約者だったと記憶していますが」

と、ブス女が言った。

そんなことも確認しないと分からないなんて顔だけじゃなく頭も悪いんじゃない。

「そうだ」

「なのに、あなたに手を出すなんて節操がないのね。汚らわしい」

「なっ!」

ふざけんな!汚らわしいのはあんたの方じゃない。

いくら自分がブサイクで私が可愛いからって嫉妬してんじゃないわよ!

「っ」

思わず怒鳴りそうになったけど何とか堪えた。ダニエルの前でそんな失態はしてくないからね。

「彼女はただの友人だ。そのような侮辱は許さない」

そうよ、そうよ。ダニエル、もっと言ってやんなさいよ。

ブス女はため息を一つ。

「『友人』。随分と便利な言葉ですわね。今この場であなた方がどれ程崇高な言葉を使ったとしても全てが汚らわしく聞こえますわ」

「まぁ、お可哀想に。お耳が悪くていらっしゃるのね」

せっかくミアが心配して声をかけてやったのにブス女はミアを一瞥しただけ。

舐めてる。ミアはディアモンの婚約者。つまり伯爵令嬢であるあんたよりも身分が上なんだから。

少しは弁えなさいよ。

「ダニエル、婚約は破棄させてもらうわね。既に両親には了承をもらっているわ」

なに、さも自分からふってやった感出してるの。だっさぁ。

ダニエルは優しいから言えなかっただけで本当はいつも別れたいと思っていたのよ。

そんなことにすら気づかないなんて。

ね、そうでしょ。ダニエル。

「っ。婚約、破棄?」

ダニエル?

「正気なのか?」

「ええ」

どうしたの、ダニエル。やっとあのブス女と別れられるんだよ。何を動揺してるの?

あっ!分かった。ふろうと思った相手に逆に振られたから驚いたんだね。

それもそうだよね。

普通はダニエルが婚約破棄を言い渡して、あのブス女が泣いて縋らないといけなかったんだもん。そりゃあ動揺するよ。

本当、セイレーンといいこの国の女達は立場を弁えないよね。

少しは私を見習いなさいよ。

「両親からは何も聞いていない」

「あなたの両親は反対しているわ」

「だったら!」

「でも破棄はできるわ。だってあなたの方に問題があるんだもの」

そう言ってブス女は私を見る。

何よ。

ダニエルもダニエルよ。

何を躊躇っているの。さっさとそんな女捨てちゃいなさいよ。

「彼女はただの友人だ」

力なくダニエルは答えた。

それをブス女は鼻で笑い飛ばす。性格までブスね。

「その言葉をいったい何人の人が信じるかしらね」

そう言ってブス女は私たちに背を向けて行ってしまった。
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