「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
その日から奇妙なことが起こるようになった。

「っ」

食事に異物が混入されていた。幸い、飲み込む前だったので大事に至らなかった。

買い物に出ると馬車の車輪が外れた。馬車は横転したが肩を痛めた程度ですんだ。自分の身に何が降りかかっているか理解するのは早かった。

せりあがる恐怖心で食事も喉を通らなくなった。

「何をしている、さっさと食べなさい」

いっこうに食事に手を付けない私を不審に思い不機嫌な顔で父が言う。

私は用意された食事に視線を落とす。この中には何が入っているのだろう。

「気分が優れないので部屋で休ませていただきます」

「お姉様、残すなんてもったいないわ。折角料理長が作ってくださったのに」

間髪入れずにライラが私を窘める。

「下の者まで気を遣えるなんてお前は優しい子だな、ライラ。セイレーン、お前も少しは見習ったらどうだ」

ライラに優しい笑みを見せた後、まるで別人のような冷たい顔で私を見る。

「見習うべきことなど何もありません。ああ、男を寝取る術なら私も見習ってやってみようかしら」

「っ」

義母が私から視線を逸らし、体を震わせる。私の言葉に傷ついたようだ。

ぱしんっ

義母の様子に気づいた父が私の頬をぶった。反動で後ろに倒れた私の体が辺りお皿が床に落ちて割れる。割れた皿の上に手を置いてしまったので手まで切ってしまった。

踏んだり蹴ったりだな。

「お姉様、いくらお姉様でもお母様を侮辱するなんてひどいわ」

ぱらりと涙を流すライラ。可愛い容姿をしているからそれだけで絵になる。

「あなた達は私の母を長年にわたり侮辱し続けたじゃない。妻のいる男と関係を持つということはそういうことよ。私に何を言われても受け入れるだけの覚悟ぐらい持って嫁いでくるべきだったわね」

「セイレーン、どうしてお前の性根はそんなに醜いんだ、人を貶めてばかりで。部屋に戻りなさい。食事もしなくていい」

私は部屋に戻った。

ライラは楽し気に笑っている。それに気づかないなんて我が父ながら情けない。母もどうしてこんなろくでなしを愛したんだか。

「お嬢様」

こっそり抜け出してきたのだろう。

部屋に戻った私の元へ救急箱を持ったキャサリンが来た。

「良かった。破片は入っていないようですね」

そう言って薬を塗り私の手に包帯を巻く。

「ありがとう、キャサリン」

「いいえ、こういうことしかできませんので」

キャサリンは申し訳なさそうに視線を落とす。全面的に私の味方をできないことに罪悪感を抱いているようだ。そんなの抱かなくて良いのに。

誰にだって生活がある。

「私を気遣ってくれる人間がいるということだけでも救いになるわ。本当に感謝しているわ。ありがとう」

「はい」
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