「君は運命の相手じゃない」と捨てられました。
私は馬車での移動を辞めた。

少し遠いけど歩いて学校に行くことにした。邸の殆どの人間が信用できないからだ。

邸にいる使用人の顔ぶれもだいぶ変わった。

キャサリン達も私もいつ解雇させられてもおかしくはない。もう関わらない方が良いだろう。

私は丁寧に包帯を巻かれた手を見て苦笑する。

「‥‥‥寂しいな」

でも、大丈夫。一人には慣れているから。

「お嬢様、旦那様がお呼びです」

ライラがルルーシュと婚約したいと言った翌日、私は父に呼び出された。

あまり行きたくはないけど無視することもできないので気は重いが私は父のいる書斎に行った。

「レドモンド君がライラとの婚約を断ってきた」

「そうですか」

正直、ほっとした。

これはくだらない独占欲だと分かっても心が喜びを止められない。ルルーシュだっていつかは誰かのお婿さんになるのに。

ただの友達でしかない私にそれを止める権利はないと分かっているけどやはり気の置けない友人がライラと婚約するのは嫌だったのだ。

「お前からレドモンド君にライラの素晴らしさを伝えておいてくれ。お前と違ってライラとレドモンド君の邂逅は僅か数分だ。それではライラの素晴らしさに気づけないのも頷ける」

この男はここまで愚かだったのだろうか。

それともあの母娘が父をここまで馬鹿にしたのだろうか。あの二人はまるで不吉の予兆ね。あの二人が来てから何もかもが上手くいかなくなった気がする。

「無理です。私にはライラの素晴らしさなど分かりませんので他を当たってください」

私の言葉に父は深いため息をつく。

「どうしてこうも違ってしまったのか。やはりあの女の血筋ゆえか」

独り言は聞こえないように言って欲しいわ。

「お前は妹の恋も応援でないのか」

「できませんね。人を不幸のどん底に貶めておいて。自分は幸せにしてもらおうなど、そんな都合の良い話があるわけないでしょ」

私の母を苦しめた人たちの応援?ふざけてる。

あの人たちがいなかったら母は死なずにすんだのに。

「それでは私は失礼します」

父はまだ何か言っていたけど私は無視して部屋に戻った。

ぼふっ。

ベッドに倒れるように横たわる。

くだらない、くだらない。

何もかもがくだらない。



◇◇◇



「ルルーシュくぅん」

学校に行くと甘ったるい声が耳に入った。

ライラがルルーシュの腕に抱き着き、胸を押し付けていた。周囲の人間はぎょっとライラを見る。

「気安く名前を呼ばないでくれる。あと、触るな」

ルルーシュは嫌悪を露わに乱暴にライラに抱き着かれた腕を引き抜く。

「もうぅ。照屋さんね」

凄いポジティブ思考。

周囲もドン引きね。

「ねぇ、私たち何れは結婚するんだからいいでしょう?」

婚約、断られたんじゃないの。

「一生あり得ない。君との婚約は断ったのに婚約者面しないでくれる?」

そこまできっぱりとルルーシュが言うとさすがのライラも拒絶されていると気づいたのか公衆の面前で声を荒げた。

「私が婚約をしてあげようって言ってるんだから黙って頷きなさいよ!」

私たちの家は伯爵家でルルーシュは侯爵家だ。幾ら今いる場所が平等を謳う学校でも階級がなくなるわけではないのでライラの言動は不敬に問われるものだ。

「ライラ、ルルーシュに謝罪を。すぐに!」

私はライラの腕を掴み、ルルーシュから引き離すように後ろに引いた。そんなに強く引いてはいないのにライラは尻もちをついた。その際にずしりと私の腕に彼女の体重が伸し掛かった。

「いったぁい。酷いわ。邸だけでは飽き足らずここでも私を虐めるのね」

そう言って涙ぐむライラ。

わざと転んで周囲の同情をひこうという魂胆が見え見えだ。先ほどの言動がなければ誰もが引っかかっただろう。
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