Pierrot

友達はみんな笑って言う。詩音はズキズキと痛む胸を誤魔化すように笑い、「そうだよね〜」と話を合わせる。大丈夫、笑える、怖くなんてない……。

一瞬の出来事だった。クラス中が静まり返る。詩音は数十秒かけ、教室の真ん中で颯に抱き締められていることに気付いた。

「無理しないでって前に言ったじゃん」

震える声で颯に言われる。その声は、心配と怒りが混ざったようなものだった。

「家族が病気になって心配しない人なんていないよ。無理して笑う必要なんてない。泣いてもいいんだよ。だって誰でも不安になるんだから」

優しく言われ、詩音の目の前がぼやけていく。ずっと張り付いていたピエロのお面が外れていく音がした。

頬に伝う感触で詩音は泣いているのだと気付く。人前で生まれて初めて泣いた。泣き方がわからず、気が付けば詩音は颯に抱き着いてしゃくり上げていた。

「好きな人に無理はしてもらいたくないから……」

優しく言われた言葉に、体温に、詩音の胸の中に初めての音が流れた。