狂おしいほどに君を愛している
30.垣間見える狂気
「受け取れないってどういうことですか?」
アリーヤと一緒に完成させた歴史のレポートを提出に私は担当教師の教室を訪ねた。
提出だけだから遠慮するアリーヤに「気にするな」と伝えて一人で来た。
アリーヤはかなり気にしていたけど最終的にお礼を言って先に帰っていった。
他意はなかったのだけど一人で来て良かったと思う。
「学生が提出したレポートを受け取れない正当な理由が当然あるんですよね」
歴史教諭は私を見てふんと鼻で笑った。
「適切でない学生が提出したレポートを受け取ることはできない」
ここは貴族が通う学校
そこで適切でない生徒ということはこの教師は私を貴族と認めないということだ。
今まで真面目に学校に通って来なかったから気づかなかった。教師と関わることもなかったし。
「教師が生徒を差別なさるんですか?」
「人に合った対応をするのは教師として当然だ」
「私は公爵家の人間です。ブラッティーネの性を名乗ることを許されています。貴族かどうかを決めるのはあなたではありません」
「はっ。さすがは娼婦の娘。立場と言うのを弁えていない」
「私は事実を述べただけです」
とは言え、評価を与えるのは教師だ。強固な態度を取り続けてもこちらが不利になるだけ。
私はともかくペアを組んでくれたアリーヤにまで迷惑をかけるわけにはいかない。
「このレポートはアリーヤ・オズウェル一人で作成したものです。評価は彼女だけにあげてください。私の評価はいりません」
「ふん。当然だ。不正まみれの奴に評価なんぞ与えられるか」
「‥…」
レポートは受け取ってもらえた。ただ、私の評価はない。
この学校は貴族が通う学校だから退学はない。それでも成績最下位なんて貴族の令嬢としては恥だ。
どうしよう。
早く対策を立てた方が良い。早期に解決するには公爵にお願いして権力に物を言わせることだろう。それには交渉しないといけない。
借りを作りたくはない。そもそもあんな奴に助けて欲しいとは思わない。
「何か、何か策を考えないと」
でも何の策も浮かばないまま複数の教師から不当な扱いを受け続けることになった。
不当な扱いを受けるのは初めてじゃない。今までの人生も今世も不当な扱いを受け続けてきた。その結果が四回とも死亡という終幕を迎えている。
教師たちは自分たちこそが正しいと主張する。
妾腹は正当に評価される資格さえ持たないのか。
「スカーレット」
「‥…ノエル。どうかした?」
焦れば焦るほど良い案が浮かばなくて放課後一人もんもんと廊下を歩いているとノエルと会った。逆光で顔がよく見えない。
だけど声が固い気がする。どうかしたんだろう。
「どうかしているのはスカーレットじゃないの。ねぇ、困っていることがあるんじゃいの?」
教師から不当な扱いを受けていることを知っているんだろうか。
いや、そんなはずはない。成績は発表されるわけではないから正当な評価をもらえなくても周りに気づかれない。現に歴史のレポート、私だけ評価を貰えなかったけどアリーヤは気づいていなかった。
「スカーレット、最近元気ないよね」
表情に出したつもりはない。隠すのは得意だし、慣れている。
私の考えが読めたのかノエルは先回りして答える。
「顔に出なくても分かるよ。俺はずっとスカーレットのことを見ているから」
「どうして?」
「そんなの決まっているじゃない。君を愛しているからだよ」
ノエルが分からない。
そりゃあ、分かり合えるほど長い付き合いじゃないけど。
何だか、少し怖い。
「君を傷つける者、君を不快にさせる者。全て排除してあげる。ねぇ、だから俺の手を取って」
「どうして、そこまで」
唾が喉に張り付いたみたいに上手く言葉が出てこない。
「私たち、会ったばかりなのに」
「‥…」
「どうして、いつもそんなに寂しそうな顔をするの?」
少し離れた所にいたノエルが私の元にゆっくりと歩いて来た。
このままここに居れば彼に捕らわれる。逃げなければと本能が警告を発していた。でも、私の足は床に張り付いて離れなかった。
私の元に来たノエルは私を抱きしめ、耳元で囁く
「例え、君が忘れていても俺は覚えている。愛しているよ、スカーレット。永遠に君は俺だけのものだ。忘れないで」
迷子の子供がやっとの思いで再会した母親に縋りついて泣くようにノエルは私を抱きしめる。
こんな場面を誰かに見られたら誤解をされる。もしくはさすがは娼婦の娘だと陰口を叩かれることになるだろう。どっちになってもノエルに迷惑がかかるのは明らかだ。
だから彼のことを思うのなら目撃者がいない今のうちに彼を引きはがさなくてはいけない。
だけど、私は彼を放すことができなかった。
アリーヤと一緒に完成させた歴史のレポートを提出に私は担当教師の教室を訪ねた。
提出だけだから遠慮するアリーヤに「気にするな」と伝えて一人で来た。
アリーヤはかなり気にしていたけど最終的にお礼を言って先に帰っていった。
他意はなかったのだけど一人で来て良かったと思う。
「学生が提出したレポートを受け取れない正当な理由が当然あるんですよね」
歴史教諭は私を見てふんと鼻で笑った。
「適切でない学生が提出したレポートを受け取ることはできない」
ここは貴族が通う学校
そこで適切でない生徒ということはこの教師は私を貴族と認めないということだ。
今まで真面目に学校に通って来なかったから気づかなかった。教師と関わることもなかったし。
「教師が生徒を差別なさるんですか?」
「人に合った対応をするのは教師として当然だ」
「私は公爵家の人間です。ブラッティーネの性を名乗ることを許されています。貴族かどうかを決めるのはあなたではありません」
「はっ。さすがは娼婦の娘。立場と言うのを弁えていない」
「私は事実を述べただけです」
とは言え、評価を与えるのは教師だ。強固な態度を取り続けてもこちらが不利になるだけ。
私はともかくペアを組んでくれたアリーヤにまで迷惑をかけるわけにはいかない。
「このレポートはアリーヤ・オズウェル一人で作成したものです。評価は彼女だけにあげてください。私の評価はいりません」
「ふん。当然だ。不正まみれの奴に評価なんぞ与えられるか」
「‥…」
レポートは受け取ってもらえた。ただ、私の評価はない。
この学校は貴族が通う学校だから退学はない。それでも成績最下位なんて貴族の令嬢としては恥だ。
どうしよう。
早く対策を立てた方が良い。早期に解決するには公爵にお願いして権力に物を言わせることだろう。それには交渉しないといけない。
借りを作りたくはない。そもそもあんな奴に助けて欲しいとは思わない。
「何か、何か策を考えないと」
でも何の策も浮かばないまま複数の教師から不当な扱いを受け続けることになった。
不当な扱いを受けるのは初めてじゃない。今までの人生も今世も不当な扱いを受け続けてきた。その結果が四回とも死亡という終幕を迎えている。
教師たちは自分たちこそが正しいと主張する。
妾腹は正当に評価される資格さえ持たないのか。
「スカーレット」
「‥…ノエル。どうかした?」
焦れば焦るほど良い案が浮かばなくて放課後一人もんもんと廊下を歩いているとノエルと会った。逆光で顔がよく見えない。
だけど声が固い気がする。どうかしたんだろう。
「どうかしているのはスカーレットじゃないの。ねぇ、困っていることがあるんじゃいの?」
教師から不当な扱いを受けていることを知っているんだろうか。
いや、そんなはずはない。成績は発表されるわけではないから正当な評価をもらえなくても周りに気づかれない。現に歴史のレポート、私だけ評価を貰えなかったけどアリーヤは気づいていなかった。
「スカーレット、最近元気ないよね」
表情に出したつもりはない。隠すのは得意だし、慣れている。
私の考えが読めたのかノエルは先回りして答える。
「顔に出なくても分かるよ。俺はずっとスカーレットのことを見ているから」
「どうして?」
「そんなの決まっているじゃない。君を愛しているからだよ」
ノエルが分からない。
そりゃあ、分かり合えるほど長い付き合いじゃないけど。
何だか、少し怖い。
「君を傷つける者、君を不快にさせる者。全て排除してあげる。ねぇ、だから俺の手を取って」
「どうして、そこまで」
唾が喉に張り付いたみたいに上手く言葉が出てこない。
「私たち、会ったばかりなのに」
「‥…」
「どうして、いつもそんなに寂しそうな顔をするの?」
少し離れた所にいたノエルが私の元にゆっくりと歩いて来た。
このままここに居れば彼に捕らわれる。逃げなければと本能が警告を発していた。でも、私の足は床に張り付いて離れなかった。
私の元に来たノエルは私を抱きしめ、耳元で囁く
「例え、君が忘れていても俺は覚えている。愛しているよ、スカーレット。永遠に君は俺だけのものだ。忘れないで」
迷子の子供がやっとの思いで再会した母親に縋りついて泣くようにノエルは私を抱きしめる。
こんな場面を誰かに見られたら誤解をされる。もしくはさすがは娼婦の娘だと陰口を叩かれることになるだろう。どっちになってもノエルに迷惑がかかるのは明らかだ。
だから彼のことを思うのなら目撃者がいない今のうちに彼を引きはがさなくてはいけない。
だけど、私は彼を放すことができなかった。