狂おしいほどに君を愛している

0.ファーガストの場合

「スカーレット・ブラッティーネ。自分の欲望の為に敵国と手を組み、我が国を貶めた罪は重い。覚悟するんだな」

怜悧な目が私を睨みつける。

彼の名前はファーガスト。ルシフェル王国の王太子殿下だ。そして私の婚約者だった男

「なぜ、このような愚かなことをした?」

苦々しく問いかけるファーガストの顔はなぜか傷ついた表情をしていた。

私に裏切られて傷ついているとでも言うの?

いいえ、そんはずないわ。

だって彼にとって私など取るに足らない存在だもの。

「あははは」

乾いた笑みが漏れた。何日も水を飲んでいないのでけほっと咳き込んでしまった。

喉が酷く乾く。頭もガンガンと痛む。体調を崩したかな、ともうじき死ぬのにそんな日常的なことを思っていた。

「私を愛さない人なんていらないのよ」

「っ」

「どうして、そんな顔をするの?ファーガスト、これであなたもやっと私から解放されるのよ。良かったじゃない。喜びなさいよ」

「本気で言っているのか?」

「冗談だとでも?私の死を乞い、喜ぶものはいても嘆き悲しむ者はいないわ。一人もね」

牢獄に私の笑い声が響き渡る。

がんっ

ファーガストは怒り任せに鉄格子を殴りつけて行ってしまった。

次に来たのは義妹のリーズナだった。ルシフェル国で最も優秀なヒーラーだ。

ヒーラーとは神から授かり力で人々の傷を癒すことのできる人のことを言う。

誰もが言う。

優しく、慈悲深いお方だと。みながそう評した。私以外のみんなが。

「お義姉様」

「久しぶりね、リーズナ。慈悲深きヒーラー様がこんなみすぼらしいところまで来てくださるなんて光栄だわ。本当に、いい趣味をしている」

「うふふふ。無様ね、お義姉様。ええ、そうよ。あなたみたいな汚れた血を義姉と呼ぶことがどれだけ屈辱的だったか。でもそれも今日で終わりね」

そう言ったリーズナの後ろから数人の騎士が出てきた。

「あなたのような者がオルガの心臓を継承するなんて。でもあなたが死ねばオルガの心臓は今度は正しいものを選ぶわ」

「それがあなたの子だとでも?そんな醜い心で選ばれると良いわね」

「減らず口は相変わらずね。後はお願いね」

「はい」

その後は悲惨だった。

助けを呼べないように舌を切り取られた。そのままだ失血死してしまうから火で炙って止血をさせられた。そして声が出ないように猿轡をされる。

いっそう殺してくれと何度も心の中で懇願した。最早、懇願すらもできなくなった時私は漸く死ぬことができた。
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