狂おしいほどに君を愛している
47.抱くには不自然な感情
「スカーレット」
今すぐにすることはないので捜索はエドウィンに任せて日常に戻ることになった。
学校を休んでいたのはエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた為となっていた。
ノエルが言っていた通り、私と彼の婚約は通った。
私はノエルに誘拐・監禁されてから一度も邸に戻っていない。
学校にはノエルの邸から通っている。
学校には従兄のシャノワールがいる。彼はわざわざ下級生の教室がある棟まで来て私に声をかけてきた。
声をかけてきた理由は分かっている。
周囲には人目があるので二人きりになれる場所まで移動した。
「何ですか?」
「婚約おめでとうでいいのか?」
ノエルとの婚約が私が望んだものか分からないのでシャノワールは祝いの言葉を述べる前にお伺いをたててきた。
急な婚約で困惑しているのもあるだろう。
彼も私の婚約候補に名を連ねていたのだから尚更。
「ええ」
「そうか。好いた奴と婚約で来たのなら良かった」
安堵しているのは私が脅されて婚約されたわけじゃないと知ったからだろうか。それとも妾腹である私と婚約させられる可能性がなくなったからだろうか。
「邸には戻らないのか?」
「ええ」
「エヴァンたちとは話したのか?」
「いいえ」
「一度邸に戻って話したらどうだ?心配していたぞ」
シャノワールの言っている意味が分からない。
心配をする理由がない。
「心配?あの人たちが?どうして?」
「どうしてって」
どうして、そんな困惑した顔をするのだろう。私はおかしなことを聞いたつもりはない。
「公式には発表されていないが、お前、誘拐されたんじゃないのか?邸から誰にも気づかれずに、いなくなって。しかもエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた直後だぞ。やっと所在が分かったかと思ったら急な婚約。心配しないはずがない。お前が行方不明の間、どれだけ公爵家が動いたか」
「オルガの心臓が大切なことは分かっています。けど」
「違うっ!」
私の言葉を遮るようにシャノワールは怒鳴る。
「どうして分からない。お前が妾腹であることを卑屈に考えているのは仕方がない。けれど、オルガの心臓関係なしにお前は公爵家にとって大切な存在なんだ。義兄が義妹を心配するのは当然だろう」
落ち着け。
繰り返し前の人生と今の私は違う。その結果、繰り返し前とは違う人間関係が形成されたんだ。
エリザベート・バートリの事件後、今のシャノワールの様子から彼らが私を心配しているのは本心なんだろう。
私が彼らに抱いている憎しみは、悲しみはこの人生では存在しないものだ。
だって私は彼らとは婚約していない。彼らにまだ裏切られていない。だから私がシャノワールの言葉に反発心を抱くのはおかしなことなんだ。少なくとも彼らにとっては。
卑屈。確かに卑屈になっているのかもしれない。
感情を整理しよう。
さっきも言った。今、私が抱いている感情は今世ではあり得ない感情なのだと。
だからそれで彼らを責めてはならない。そんなのは無意味だ。無意味なのは切り捨てよう。感情を切り捨て、心を押し殺し、理性的に対処しよう。
「何しているの?」
ぞくりと背筋が悪寒を走るほど冷たい声が背後からした。
私の前にいるシャノワールは膝をついた。心臓を抑え、とても息苦しそうだ。
どうしたのだろうと声をかけようとした時、後ろに引っ張られ、捕えられた。
「っ。ノ、エ、ル」
「ダメじゃないか、スカーレット。俺以外の男とこんな密室で二人きりになるなんて」
今すぐにすることはないので捜索はエドウィンに任せて日常に戻ることになった。
学校を休んでいたのはエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた為となっていた。
ノエルが言っていた通り、私と彼の婚約は通った。
私はノエルに誘拐・監禁されてから一度も邸に戻っていない。
学校にはノエルの邸から通っている。
学校には従兄のシャノワールがいる。彼はわざわざ下級生の教室がある棟まで来て私に声をかけてきた。
声をかけてきた理由は分かっている。
周囲には人目があるので二人きりになれる場所まで移動した。
「何ですか?」
「婚約おめでとうでいいのか?」
ノエルとの婚約が私が望んだものか分からないのでシャノワールは祝いの言葉を述べる前にお伺いをたててきた。
急な婚約で困惑しているのもあるだろう。
彼も私の婚約候補に名を連ねていたのだから尚更。
「ええ」
「そうか。好いた奴と婚約で来たのなら良かった」
安堵しているのは私が脅されて婚約されたわけじゃないと知ったからだろうか。それとも妾腹である私と婚約させられる可能性がなくなったからだろうか。
「邸には戻らないのか?」
「ええ」
「エヴァンたちとは話したのか?」
「いいえ」
「一度邸に戻って話したらどうだ?心配していたぞ」
シャノワールの言っている意味が分からない。
心配をする理由がない。
「心配?あの人たちが?どうして?」
「どうしてって」
どうして、そんな困惑した顔をするのだろう。私はおかしなことを聞いたつもりはない。
「公式には発表されていないが、お前、誘拐されたんじゃないのか?邸から誰にも気づかれずに、いなくなって。しかもエリザベート・バートリの事件に巻き込まれた直後だぞ。やっと所在が分かったかと思ったら急な婚約。心配しないはずがない。お前が行方不明の間、どれだけ公爵家が動いたか」
「オルガの心臓が大切なことは分かっています。けど」
「違うっ!」
私の言葉を遮るようにシャノワールは怒鳴る。
「どうして分からない。お前が妾腹であることを卑屈に考えているのは仕方がない。けれど、オルガの心臓関係なしにお前は公爵家にとって大切な存在なんだ。義兄が義妹を心配するのは当然だろう」
落ち着け。
繰り返し前の人生と今の私は違う。その結果、繰り返し前とは違う人間関係が形成されたんだ。
エリザベート・バートリの事件後、今のシャノワールの様子から彼らが私を心配しているのは本心なんだろう。
私が彼らに抱いている憎しみは、悲しみはこの人生では存在しないものだ。
だって私は彼らとは婚約していない。彼らにまだ裏切られていない。だから私がシャノワールの言葉に反発心を抱くのはおかしなことなんだ。少なくとも彼らにとっては。
卑屈。確かに卑屈になっているのかもしれない。
感情を整理しよう。
さっきも言った。今、私が抱いている感情は今世ではあり得ない感情なのだと。
だからそれで彼らを責めてはならない。そんなのは無意味だ。無意味なのは切り捨てよう。感情を切り捨て、心を押し殺し、理性的に対処しよう。
「何しているの?」
ぞくりと背筋が悪寒を走るほど冷たい声が背後からした。
私の前にいるシャノワールは膝をついた。心臓を抑え、とても息苦しそうだ。
どうしたのだろうと声をかけようとした時、後ろに引っ張られ、捕えられた。
「っ。ノ、エ、ル」
「ダメじゃないか、スカーレット。俺以外の男とこんな密室で二人きりになるなんて」