分岐点  ~幸せになるために

帰る毅彦に コーヒーを淹れるのは いつもの習慣。

いつもと違うのは 2人とも 黙ったまま。


毅彦は 喉を鳴らして コーヒーを 飲み干すと


「沙耶香。明日 食事しようか。最後に。」

私を見つめて そう言った。

「うん。」


最後か。

最後だよね。


私達 上司と部下に 戻るんだね。


本当に いいの?


私は 急に不安になって。

じっと 毅彦を 見つめる。


寂しいと思ったことは 何度もあったけど。

毅彦と過ごす時間は いつも 幸せだった。


でも… いつまでも このままでは いられない。


毅彦の家族を 傷付けているから…


別れの タイミングだったんだよ、きっと。


涙が出そうになって ギュッと 奥歯を噛む。

私から 別れを言い出したから。


私が 涙を見せることは できない。


俯いて 黙ったままの私に


「お店 予約しておくね。」

毅彦は そう言って 立ち上がる。


多分 もう この部屋に 来ることも ないんだね。


「ありがとう。」


狭い玄関で 靴を履く 毅彦に

やっと 言って 笑顔を作ったけど。


ただ 口元が 歪んだだけで。


「うん。おやすみ。」


毅彦は 私の肩を 両手で包んで。


そっと ドアを閉めた。






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