分岐点  ~幸せになるために

別れるって 決めたのは 私だから。

毅彦の前で 泣いてはいけないって。


涙を堪えて 下を向いて。


「そろそろ 行こうか。」


もう 本当に 終わりだね。


レストランを 出る時 毅彦は もう私の手を 握らない。


「色々 ありがとうございました。」

「こちらこそ。明日からは 会社でね。」


「私 地下鉄で帰るから。ここで。」


「うん。気をつけて。」


ホテルを出て 地下鉄の駅まで 

傘をさして 一人で歩く。


雨が降っていて 良かった。

溢れ出す涙を 傘が 隠してくれる。


「……?」

名前を呼ばれたような 気がして 振り返ったけど。


そこに 毅彦の姿は 無くて。


通りを走る 車の ヘッドライトが

涙に歪んで 一本の線みたいに 見えた。


もう 今夜から 毅彦のラインは 届かない。


二度と 抱き締められることもない。


喪失感… 怖いくらい 心細くて。


涙が 止まらないまま 私は 歩き続けた。


冷たい 春の雨の中…







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